博士(環境科学)
研究室の紹介(栄養生命科学研究室)
私たちは、妊娠期や授乳期における栄養環境が、生まれてくる子の将来の生活習慣病の発症にどのような影響を及ぼすか、また、生じる生活習慣病を予防する食品成分にはどのようなものがあるかなどについて研究を進めています。
当研究室では、栄養学や生化学を通じて、様々な生命現象における「不思議さ・巧妙さ・すばらしさ」を感じてほしいです。
いっしょに、「栄養と健康」について考えてみませんか?
研究室メンバー
博士後期課程:1人、博士前期課程:1人、学部4年生:3人
2022年度 卒業研究テーマ
- 胎生期・授乳期に低栄養に曝された母ラットの授乳期におけるグルコラファニン摂取が仔ラットの肝臓に及ぼす影響
- 潰瘍性大腸炎モデルマウスの大腸に及ぼすレスベラトロール二量体の影響
- 糖尿病モデルラットの腎障害に及ぼすポリフェノールの有効性評価に関する研究
主な研究内容
1. 妊娠期や授乳期の低栄養により生じる糖尿病や肥満の発症機構の解明とその予防
近年、妊娠期や授乳期の母体の栄養状態が悪いと、その母から生まれた子は、成長後に肥満、糖尿病、高血圧などを高率に発症することがわかっています。これはドーハド説(DOHaD;Developmental origins of health and disease)といわれ、胎児期あるいは新生児期の栄養環境が、何らかの形で記憶され、将来の肥満や2型糖尿病などの発症に影響を及ぼすとされています。栄養状態がよくない母体や生まれた子の体内では、いったい何が起こっているのでしょうか?
私たちは、低栄養や過栄養にさらされて産まれた子ラットが、「なぜ、成長後に肥満や糖尿病になるのか?」「発育初期にある種の食成分(例えば、茶カテキン類など)で、将来、起こり得る病気を予防できないものだろうか?」などと疑問をもちつつ、そのメカニズムを探っています(下図)。
さらに、清涼飲料水などに含まれている「果糖(フルクトース)」を妊娠期に摂りすぎると、生まれた子は肥満や糖尿病になるのだろうかという研究も進めています。
(研究成果)
- Modulation of chronic inflammation by quercetin: the beneficial effects on obesity. J Inflamm Res. 2020;13:421-431. Review.
- Maternal quercetin intake during lactation attenuates renal inflammation and modulates autophagy flux in high-fructose-diet-fed female rat offspring exposed to maternal malnutrition. Food Funct. 2019;10: 5018-5031.
- Maternal green tea polyphenol intake during lactation attenuates kidney injury in high-fat-diet-fed male offspring programmed by maternal protein restriction in rats. J Nutr Biochem. 2018;56:99-108.
2.「健康によい食品」という理由を問う(その1)-糖尿病における小豆ポリフェノールの生理調節機能について-
和菓子などに使われる小豆は古くから「健康によい」食品といわれてきましたが、なぜ「健康によい」のかという科学的な証拠(エビデンス)はありませんでした。私たちは糖尿病モデル動物を用いて、小豆のポリフェノールが糖尿病を予防する可能性を見出し、そのメカニズムを解明しています。
近年、ある種の糖尿病治療薬は、エネルギーのセンサーとして働くAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を介した刺激によって糖代謝を改善するそうです。私たちは、小豆ポリフェノールを糖尿病ラットに与えるとAMPKが活性化することを見出しました。また、小豆ポリフェノールは糖尿病ラットの腎臓の炎症細胞の出現を抑制して腎障害を軽減することも報告しました。
(研究成果)
- Azuki bean (Vigna angularis) extract reduces oxidative stress and stimulates autophagy in the kidneys of streptozotocin-induced early diabetic rats. Can J Physiol Pharmacol. 2016;94:1298-1303.
- Azuki bean (Vigna angularis) extract stimulates the phosphorylation of AMP-activated protein kinase in HepG2 cells and diabetic rat liver. J Sci Food Agric. 2016;96:2312-8.
- Azuki bean polyphenols intake during lactation upregulate AMPK in male rat offspring exposed to fetal malnutrition. Nutrition 2013;29:291-7.
3.「健康によい食品」という理由を問う(その2)-青森県産タカキビの生理調節機能-
タカキビ(Sorghum bicolor)は世界五穀の一つであり、モロコシともいいます。青森県ではタカキビの栽培が盛んに行われています。タカキビにはポリフェノールが多く含まれています。しかし、古くから栽培され、食されているにもかかわらず、私たちの健康にどのような役割を果たすのかはよくわかっていません。私たちは、タカキビ抽出物が脂質代謝異常を改善したり、肝臓中の炎症細胞の浸潤を抑制することを新たに見出しました。
(研究成果)
Sorghum (Sorghum bicolor) extract affects plasma lipid metabolism and hepatic macrophage infiltration in diabetic rats. Current Nutrition & Food Science, 2019, DOI : 10.2174/1573401315666190114153933
4. 環境廃棄物を生活習慣病の予防に役立てる -木質系バイオマス・リグノフェノールの生理調節機能について-
リグノフェノールは、植物のリグニンからある化学反応を通して得られる素材です。現在、工業的な研究開発は進んでいますが、私たちの健康維持にどんな役割を果たすのかはよくわかっていません。私たちは、リグノフェノールの慢性腎臓病における生理調節機能を探索しています。
(研究成果)
- Lignin-derived low-molecular-weight oxidized lignophenol stimulates AMP-activated protein kinase and suppresses renal inflammation and interstitial fibrosis in high fat diet-fed mice. Chem Biol Interact. 2020;318:108977.
- Effect of lignin-derived lignophenols on hepatic lipid metabolism in rats fed a high-fat diet. Environ Toxicol Pharmacol. 2012;34:228-34.
プロフィール
北海道大学 大学院環境科学研究科博士課程を修了後、外資系製薬会社の勤務を経て、函館短期大学・食物栄養学科に勤務。その後、青森県立保健大学に勤務。
大学院研究室
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